不動産投資のために物件の購入を検討する際、「擁壁(ようへき)」という言葉を目にしたことはありませんか?
何らかの壁であることは明らかですが、どういった用途のための壁なのか把握していない方が多くいます。
擁壁は物件選びの重要なポイントとなる部分です。正しい知識を持たないまま物件を購入してしまうと、後々予想外の出費やトラブルなどのリスクにつながりかねません。
この記事では、擁壁の基本と不動産投資に失敗しないための5つのポイントを詳しく解説します。不動産投資に興味がある方や検討している物件に擁壁がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
擁壁とは
擁壁とは鉄筋コンクリートやコンクリートブロック、石などを使用した壁の形をした構造物を指します。
高低差のある土地や傾斜地に建物を作る際、その土地に圧力や荷重がかかると斜面が崩れるおそれがあり、土壌や崖の崩壊を防ぐための土留として擁壁が活用されます。
簡易的な構造物を土留と呼び、長期的なもの擁壁と呼ぶのが一般的です。
固まっていない土壌による横圧の発生と水圧による崩壊を防ぐことが目的であり、土壌の安息角を大きく超える高低差を地面に設置する際に設けられます。
安息角とは土や砂利、粉状の物体を積み上げた際、自発的に崩れることなく安定した状態を保てる限界の角度のことをいいます。一般的には35度前後が地上の斜面での安息角です。
擁壁の種類
擁壁は、使用する材料や工法によって3つ(RC造擁壁、ブロック擁壁、石積み擁壁)に分けられます。それぞれ耐久年数が異なるため、物件購入の際に一つの判断基準となるはずです。
ここでは、宅地で主に使用される擁壁を種類別に解説します。
RC造擁壁
RC造擁壁は別名「鉄筋コンクリート擁壁」とも呼ばれ、最も主流な擁壁です。
名前からもわかるように、コンクリートの中に鉄筋が埋め込まれており、見栄えが良く耐震性も高い特徴からさまざまな場所で活用されています。
RC造擁壁のなかでも、L型擁壁と呼ばれるアルファベットのLの形をしたものが一般的です。L型擁壁はL字の底部分を敷地側に向け、地面に埋めることで敷地ギリギリに設置できます。
また、逆L型擁壁や逆T型擁壁などを使い分けるケースもあり、土地の形状や敷地の広さに応じて異なります。
ブロック擁壁
ブロック擁壁は、コンクリートのブロックを組み合わせ積み上げて作る擁壁です。
敷地側に対して斜めにブロックを積み上げ、擁壁の裏側をセメントやコンクリートなどで固めながら作る特徴があります。
日本の城でよく見られる石垣のような構造であり、高速道路の横にある山の斜面や河川の岸に使われることが多いです。
ブロック擁壁の中でも「間知ブロック擁壁」が主流であり、基準を満たせば5メートルまでの擁壁が設置できる特徴があります。
高低差が大きい住宅地に使用されることが多く、壁面が傾いているケースが多いです。
石積み擁壁
石積み擁壁は石を積み上げて作られる擁壁であり、比較的コストがかからない特徴があります。「練石積み擁壁」と「空石積み擁壁」の2つに分けられ、耐久性も異なります。
練石積み擁壁は積み上げた石の間にセメントやモルタルを流し込み、石同士を連結させる作成方法です。石を連結させることで、強度が増しより強固な擁壁になります。
一方で、空石積み擁壁は石を積み上げただけの擁壁です。石の間に砂利や小石を敷き詰め形を保ちます。
簡単な構造であるため、耐久性が弱く土壌の横圧や水圧に対しての抵抗力が乏しいことが特徴です。
明治時代や昭和昭和初期までは腕利きの職人が多くいたことから、空石積みでも強固な擁壁を作ることが可能でしたが、現代では作ることが難しい現状があります。
現代では、高低差が少ないガーデニングや造園などの土壌に使われることが多いです。
擁壁が抱えるリスク
斜面や高低差が多い土地に建物を建てられるようにできる擁壁は、非常に便利であり現代では欠かせない技術です。
しかし、擁壁は万能ではなくさまざまなリスクを抱えています。物件を購入する前にリスクを把握しておくことが大切です。
ここでは、擁壁が抱えるリスクを3つ紹介します。
劣化による修繕費用の発生
耐久性や耐震性に優れた擁壁ですが、いずれは劣化する運命にあります。
構造による違いはありますが、擁壁の耐用年数はおよそ20年~50年といわれており、年数が経過するにつれて徐々に劣化するものです。
また、新たに作られた擁壁でも壁面にひび割れや亀裂が入っている場合は、将来的に修繕や建て替えが必要になる可能性があります。
近隣住民とのトラブル
擁壁を作る際は、一般的に高所に住む住民が費用の負担をします。
しかし、地域によっては低所に住む住民が費用を負担する場合や、高所および低所に住む住民が費用を出し合う場合があります。
時間の経過とともに住民や所有者が入れ替わり、擁壁が作られた経緯や費用の負担は誰がしたのかなどの情報が曖昧になっていくものです。
自然災害時に擁壁が崩壊し、低所の住宅や住民に被害が出た際は擁壁の所有者の責任となるケースが多く、トラブルの原因になりかねません。
擁壁が不適格
擁壁に関する法律や条件は定期的に変わります。
購入した物件の擁壁が万が一にも現行の基準を満たしていない場合は、修繕や立て直しを余儀なくさせられる可能性があります。
擁壁の立て直しは規模によって多少異なりますが、多くの場合数百万円かかる場合があるため注意が必要です。
気になる物件がある場合は事前に適格な擁壁か確認し、手を加える必要があるのであれば不動産業者に工事や費用の相談をしましょう。
不動産投資に失敗しないための3つのポイント
擁壁は便利で見栄えが良い特徴はありますが、リスクが必ず伴います。
特に築年数が経過した物件の場合は、擁壁の劣化が想定され購入後に修理や立て直し費用がかかる可能性が高いです。
物件を購入しても、予期せぬ出費で不動産投資の意味が薄れてしまうかもしれません。ここでは、不動産投資に失敗しないためのポイントを3つ紹介します。
表面を確認
擁壁の確認を行う際は、まず表面の確認をします。
擁壁の表面にひび割れや亀裂がないか目視で入念に確認しましょう。すでに傾いている場合や大きな亀裂が入っている場合は、修繕や立て直しが近い将来必要になります。
また、擁壁が二段になっていたり二重になったりしている場合は違法建築の可能性もあるため、こちらも同様に確認しましょう。
材質を確認
擁壁の材質は非常に重要なポイントです。
現在では、自然石を積み上げて作られた壁は擁壁として認められていません。
人工的に作られたコンクリートブロックや鉄筋を含むものなど、強度が十分に確保されているもののみ擁壁として認められます。
築年数が経過している物件の購入を検討している場合は、注意が必要です。
水抜き穴の状態確認
擁壁は水を逃がすための水抜き穴が必要不可欠です。
水抜き穴がない場合は雨や水害で発生した水が擁壁の内側に溜まり、土壌を緩め崩壊するリスクが高まります。
たとえ水抜き穴が設置されていても、劣化や詰まりなどによって正常に機能していなければ物件購入後に修理をしなければなりません。
後々の出費やトラブルを抑えるためにも、水抜き穴の有無や状態確認を入念に行うようにしましょう。
まとめ
この記事では、不動産投資における擁壁がある物件のリスクと失敗しないためのポイントについて解説しました。
擁壁があることで、高所や斜面に建物を建てられるメリットがありますが、経年劣化は避けて通ることはできず、いずれ修理や立て直しが必要になるものです。
不動産投資のために物件を探す際は擁壁の材質や構造、状態などをしっかり把握したうえで購入することをおすすめします。