不動産投資は動かすお金が大きくなるため、支払う税金も大きくなります。
不動産は資産という性質上、毎年減価償却をしなければなりません。この仕組みが節税に大きく影響します。とはいえ、どのように減価償却するのか具体的な方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産投資における減価償却の仕組みについて詳しく解説します。
また、減価償却を行うメリットや注意点についても取り上げていますので、今後不動産投資をしようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
不動産投資における減価償却の仕組み
不動産投資で物件を購入した場合、取得費を一度に費用化するのではなく、法定耐用年数に応じて分割して費用化できます。これを減価償却といいます。
減価償却とは、固定資産の資産価値が時間の経過とともに減少することを反映したものです。
不動産の場合、減価償却は建物部分と付属設備部分に適用され、土地部分は土地の価値が下がらないため、減価償却の対象にはなりません。
減価償却費は費用として計上できるため、所得税や法人税の課税所得を減らすことができます。つまり、減価償却を活用すれば節税になるというわけです。
減価償却には定額法と定率法がありますが、不動産投資では定額法が一般的です。定額法では、毎年同額の減価償却費を計上します。
定額法の減価償却費は、「不動産の取得価額×定額法の償却率」で計算します。定額法の償却率は、国税庁が定めた「減価償却資産の償却率表」によって決定されます。
構造・用途 | 耐用年数 | 償却率 |
木造・合成樹脂造のもの | 15~24年 | 4.17%~6.67% |
木骨モルタル造のもの | 14~22年 | 4.55%~7.14% |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 31~50年 | 2.00%~3.23% |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 30~41年 | 2.44%~3.33% |
金属造のもの | 17~38年 | 2.63%~5.88% |
建物の構造や用途によって異なる耐用年数が設定されており、耐用年数が長いほど償却率は低くなります。例えば、鉄筋コンクリート造の住宅用建物を1,000万円で購入した場合、法定耐用年数は47年、定額償却率は2.17%です。
したがって、毎年「1,000万円×2.17%=217,000円」を減価償却費として計上することができます。
このように計算された減価償却費は、その不動産から得られる家賃収入から差し引くことができるため、課税所得を減らすことができます。
また、減価償却期間中は建物の資産価値が減少することになりますが、これはあくまでも会計上のことであり、実際の時価や利回りに影響を与えるものではありません。
不動産投資における減価償却のメリット
減価償却費の計上には、以下のようなメリットがあります。
利回りの向上
減価償却費は実費ではないため、不動産投資の利益を増やすことができます。
例えば、1億円で購入した物件で年間600万円の家賃収入がある場合、減価償却費を計上しなければ利回りは6%ですが、年間200万円の減価償却費を計上すれば利回りは8%になります。
つまり、減価償却費を計上することでキャッシュフローが改善されるというわけです。
節税効果
減価償却によって不動産所得が減少すれば、所得税や住民税の納税額が減少します。
例えば、年間の家賃収入600万円から経費(管理費、修繕費など)200万円を差し引いた400万円の不動産所得があったとします。
この場合、所得税・住民税は約100万円となります。しかし、さらに200万円の減価償却費を計上すると、不動産所得は200万円となり、所得税・住民税は約50万円となります。
損益通算
減価償却費によって不動産所得が赤字になった場合、他の所得と相殺することができます。これにより、本業所得や副業所得など他の所得から税金を差し引くことができます。
特に、本業の所得が多い人ほど累進課税制度の影響を受けやすいため、損益通算による節税効果は大きくなります。
例えば、本業の所得が1,000万円、不動産所得が-500万円の場合、通常であれば1,000万円で確定申告をしなければなりません。
そこで、損益通算をすることで500万円で確定申告をすることができます。これにより、約150万円の節税となります。
不動産投資で減価償却を行う際の注意点
不動産投資には、減価償却を利用して所得税などの節税ができるメリットがあります。しかし、減価償却には注意点があり、計画的に行う必要があります。
ここでは、不動産投資で減価償却を行う際の注意点を3つ紹介します。
減価償却期間の上限に注意
減価償却とは、不動産の取得価額を一括して費用として計上するのではなく、法定耐用年数にわたって毎年一定額を費用として計上する方法です。
これにより、所得税や住民税の課税所得を減らすことができます。ただし、減価償却は無制限ではありません。
法定耐用年数を過ぎると減価償却費を計上できなくなります。そのため、減価償却期間が終了すると節税効果がなくなり、税金が大幅に増える可能性があります。
また、減価償却期間が終了すると不動産の資産価値も下がり、売却が難しくなります。
そのため、減価償却期間の残り年数や物件の状態などを考慮して、売却時期や売却方法を検討する必要があります。
売却時の税金に注意
減価償却は所有期間中は節税効果がありますが、売却時には逆効果になる場合があります。
不動産を売却すると、売却益に対して譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた金額に対して課税されるものです。
ただし、取得費は実際に支払った金額ではなく、現在価値に換算する必要があります。現在価値とは、取得時から売却時までに計上された減価償却費を差し引いた金額です。
つまり、減価償却費を多く計上すればするほど、取得原価は小さくなります。
その結果、売却益が大きくなり譲渡所得税が高くなります。特に短期譲渡所得(所有期間5年以下)の場合は、高率(39.63%)で課税されるため注意が必要です。
設備部分と建物部分の区別
不動産投資の減価償却では、設備部分と建物部分を区別する必要があります。設備部分とは、エアコンやキッチンなど取り外しが可能な部分です。
建物部分は、基礎や柱など取り外せる部分で、建物主要部分とは、基礎や柱など取り外せない部分を指します。
設備部分と建物部分では、耐用年数や減価償却方法が異なります。一般的に設備部分は耐用年数が短く償却率も高いため、より多くの減価償却費を計上できます。
また、設備部分を修繕・更新することで、減価償却期間を再設定可能です。これにより、物件の価値や稼働率が向上し、節税効果も期待できます。
ただし、設備部分の減価償却費は売却時の税金にも影響します。設備部分の取得価額から減価償却費を差し引くと、売却益が多くなります。
そのため、設備部分の減価償却費と売却時の税金とのバランスを考慮する必要があるでしょう。
減価償却を利用した節税が向いているケース
不動産を所有している場合でも、減価償却が不要な場合があります。減価償却が必要かどうかを判断するためには、具体的にどのようなケースで減価償却が必要か理解することが重要です。
投資用不動産を所有している場合
投資用の不動産を所有している場合、家賃収入が発生するため減価償却が必要になります。
具体的には、建物の取得価額から土地の価額を差し引いた金額を、法定耐用年数にわたって減価償却費を計算します。この減価償却費は、確定申告時に申告する必要があります。
賃貸用不動産を売却する場合
賃貸用に使用していた不動産を売却する場合には、減価償却が必要です。売却時には税金が発生するため、譲渡所得の課税額を計算する際に減価償却費を考慮する必要があります。
具体的には、建物の取得価額から土地の取得価額を差し引いた金額について減価償却費を計算し、その金額を取得価額から差し引いて課税対象額を計算します。
耐用年数が短い場合
耐用年数が短い物件は、減価償却費を多く計上できるため節税効果が高くなります。
例えば、木造や軽量鉄骨造の建物の場合、法定耐用年数が22年や27年と短いため、減価償却費を大幅に削減することができます。
また、法定耐用年数を超えた物件は、簡便法で償却することが可能です。この場合、耐用年数を超えた部分について、年5%程度の減価償却費を計上でき、節税につながります。
まとめ
不動産投資の節税方法は多くありますが、その中でも減価償却は有効な手段の一つです。
特に、不動産所得以外に給与所得など高額な税金がかかる所得が多い方は、減価償却を利用することで損益通算ができ、課税所得を大幅に減らすことができます。
ただし、減価償却を利用するには注意点もあります。例えば、減価償却によって不動産の評価額が下がるため、将来の売却価格が下がる可能性がある点などが挙げられます。
また、減価償却費の計上には法定耐用年数や物件の種類などの条件があり、計算方法に誤りがあると税務署から追徴課税されるリスクがあります。
これらのリスクを避けるためにも、信頼できる不動産会社や税理士に相談することをおすすめします。